• Miho Uchida

グラインドボーン音楽祭の音楽監督、ロビン・ティチアーティ氏にインタビュー

Updated: May 26

Interview ・ Robin Ticciati OBE


ロビン・ティチアーティ氏 ©Geogia Bertazzi

ロビン・ティチアーティ (Robin Ticciati OBE)


プロフィール


イギリス人指揮者。若くして才能を開花させ、2009年に26才の若さでスコットランド室内管弦楽団の首席指揮者に就任。2018年まで務めた。2014年よりグラインドボーン音楽祭の音楽監督。2017年よりベルリン・ドイツ交響楽団の音楽監督。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、バイエルン放送交響楽団など欧州トップレベルのオーケストラの客席指揮者としてもタクトを振る。オペラ指揮者としてもMET、スカラ座、ロイヤル・オペラ・ハウスなど世界の頂点に立つ歌劇場で活躍する大スター。音楽界での貢献が認められ2019年、英国王室より大英帝国勲章(OBE)受賞。


英国は現在ロックダウン中だが全国でワクチン接種が円滑に進んでいる。そして今週初め、ジョンソン首相が6月下旬には経済全面再開を目指して段階的に規制を緩和する計画を発表した。その前向きな発表を受け、英国のカントリーハウスオペラの横綱格であるグラインドボーン音楽祭もフェスティバルの実行に向け士気を高めており、音楽監督のロビン・ティチアーティ氏が忙しいスケジュールの合間を縫ってインタビューに応じてくれた。


「こんにちは美穂!ロビン・ティチアーティです!」彼の第一声は愛情と包容力に満ち溢れ私は全身の力が抜けて溶けてしまいそうだった。が襟を正してまずは、ピアノにヴァイオリン、そしてパーカッションも習得していた彼がなぜ指揮を選んだのか尋ねた。

「子供の頃から音楽を聴くと体の奥底から感動しました。それが何を意味していたのかは解らなかったけど、僕にとって音楽がとてつもなく大きな意味を持っているということはわかっていた。母がこう言ったことがあります。『あなたから音楽を取り上げるのは空気を取り上げるのと同じね』と。オーケストラの演奏では各楽器のメロディに聞き惚れて、それぞれのメロディに感動していたから、一つの楽器を選ぶなんてできなかった。僕はそれら音楽の中央にいる自分を感じていたし、各楽器の奏でる音楽全部のストーリーを観客に伝えなくてはと思っていた。13歳の時、僕が所属していたナショナル・ユース・オーケストラの指揮をしていたコリン・デイヴィス氏の知恵と愛、そして彼がキャンバスに音楽を描くその才能に感動してこれが僕のやるべき事だと思いました」


指揮をしていて楽しい瞬間、難しいと思う瞬間


「自分が勉強し理解した音楽、その中に込められた作曲家たちの意志、願いを自分達が奏でる音によって表現できた時に指揮者としての喜びを感じます。楽譜を愛して大事にすることを通して僕が感じ取ったものを音で表現できた時です。これがなければ指揮者としての喜びは不完全です。そして楽器奏者たちが感動し音楽に引き込まれているのが分かる時、観客の心の琴線に触れた事が分かった時も大きな喜びです。もちろん自分たちも楽しんでいるけれど僕たちは人々を感動させるために音楽を奏でています。だから、コロナウィルスによって観客なしで演奏している時は本当に考えさせられました。『僕たちはどうして演奏しているんだろう。誰の為にやってるの?自分のため?』と。指揮をしていて難しいと思う時はまずは身体の調子が悪いとき。あとは自分の目の前にいるオーケストラ・メンバーの魂を開ける鍵が見つからない時です。僕とオーケストラの間にケミストリーがあれば、僕はその鍵を見つけることができます。でもそれが出来ないと独創性の乏しい無味乾燥な音になってしまう。これはとてもつらいです」と語った。


グラインドボーン音楽祭への思い、今年の演目


  音楽監督を始めて7年目になるグラインドボーン音楽祭についてロビンはその牧歌的な環境の中で自分の魂は自由を得られると話し、声を弾ませこう言った。

「グラインドボーンは理想のオペラ・カンパニーです。根底にあるものが家族経営の気風で、働いている人たちそれぞれの気持ちのこもった場所です。と同時に物凄くプロフェッショナルで個々の担当者はその分野で著しく優れている人々です。この二つが揃う場所なんて他にはありません。(グラインドボーン代表の)ガスは『ここでは毎晩が初演日だ』と言っています。これは毎晩初めて来るのであろう観客の心を揺さぶり感動させるために自分たちも初演日の緊張感と昂る気持ちを毎日保とうという心構えで、グラインドボーンの精神となっています」


  ロビンが指揮する今年のグラインドボーンの演目、ダミアーノ・ミキレット氏の新作品『カーチャ・カバノヴァー』と、コロナウィルス感染防止のための政府規定を遵守すべくオーケストラの位置をピットから舞台に移し、セミ・コンサート形式を取って上演する『トリスタンとイゾルデ』について話してもらった。

「ダミアーノは演出家にも拘わらず非常に音楽の才能がある。彼のステージ・ヴィジョンは直感的であり、そのアイディアは時に過激なときもあるけれど、全てが音楽を基調にできあがっています。『カーチャ』は生々しい人間のリアリズムを扱ったオペラゆえに人の心に訴えます。そして赤裸々な感情をヤナチェックのピンと張り詰めた音楽が表現します。その音楽に合わせた彼の演出を楽しんで欲しいです。ワーグナーの『トリスタン』は多くの心理をオーケストラが語るので、ステージや劇がまさにオーケストラの中にあるとも言えます。観客は舞台上のオーケストラを見て何が起きているのか分かるため、セミ・コンサート方式ではオペラとは違った素晴らしい効果が期待できます」


  クラシック音楽界のスーパースターにも拘わらずインタビューの最中ずっと誠意を持って情熱的に質問に丁寧に答えてくれたロビン。彼の熱情に惹きつけられた私の心はすでに6月のグラインドボーンの田園詩的な草原を夢見ている。



ロビン・ティチアーティ氏 © Camille Blake

広大な敷地の中に建つオペラハウス ©Glyndebourne Productions Ltd. Photographer:James Bellorini

花園の脇でピクニックを楽しむ観客 ©Glyndebourne Productions Ltd. Photographer:James Bellorini

2021年フェスティバルはSocial Distanceを遵守して開催予定©Glyndebourne Productions Ltd. Photographer:James Bellorini

2021年グラインドボーン音楽祭、5月20日―8月29日、http:www.glyndebourne.com/festival/

最新情報は公式サイト参照


2021年3月25日発売 ACT4、101号「ロンドン便り」にて掲載

www.impresario.co.jp