top of page
  • Miho Uchida

ディーヴァ展・ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)にて

DIVA at V&A South Kensington


『椿姫』のヴィオレッタを演じるマリア・カラス 1958年頃 photography by Houston Rogers © Victoria and Albert Museum, London

V&Aで現在開催されているディーヴァ展が人気を呼んでいる。そもそもディーヴァとはイタリア語で女神を意味するが、そこから派生して、オペラが始まった16世紀のイタリアで、舞台上で人並外れた才能を発揮し、観客達の心を掴んで離さない女優を意味するようになった。そして、19世紀になるとディーヴァとは卓越した女性オペラ歌手を指すようになった。そして今では性別にかかわらず映画、音楽、舞台上で輝き、己の創作活動によって社会に影響を与える人物を指している。このディーヴァ展では19世紀から現在までのディーヴァの指す意味がどのように変遷してきたかと同時に彼らの主張から世の移り変わりを検証する。


入り口で受け取るヘッドフォンからは展示品と呼応する音楽が流れるので、視覚と聴覚を通して、各ディーヴァの存在していた時代にトリップできる。


オペラの幕のように会場を第一幕と第二幕に分けてあり、第一幕では本来のディーヴァ、すなわち、神がかった才能を持った19世紀の女性オペラ歌手から20世紀の女性ハリウッドスターや舞台スターなどが身に着けた衣装や彼女たちにちなんだ作品、また彼女たちがその時代の社会に与えた影響を紹介する。


第二幕では現在におけるディーヴァ、すなわち性別を問わず比類なきスター性によって人々を惹きつけ、社会に対する主張をし、世の中を牽引していくスーパースターのパフォーマンススタイルを展示することによって時代の流れとディーヴァの変遷を見させる。男女や人種の平等、ひいてはLGBTQやSOGIの主張を訴えるディーヴァたちの活動は世の中を変えていくだけの求心力がある。


第一幕では、ヘッドフォンから流れるマリア・カラスの歌声を聞きながら展示を眺めれば、オペラ・ディーヴァの代表カラスが1952年にロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)に初めて登場し、彼女の十八番であるノルマを歌った時に身に着けた衣装や、1964年にROHで最後に歌った時に着ていたトスカの衣装が60年前のコヴェント・ガーデンを彷彿させる。「最高のパフォーマンスを披露するためなら私はいつでも意固地になるわよ。」というカラスの言葉からも理解できるように彼女たちは自分の主張の為には周囲と戦う準備がいつもできているのだろう。また、一世を風靡したソプラノ歌手・レオンティン・プライスが1973年にアイーダを演じた時の写真などは黒人分離政策中のアメリカ時代を生きてきた黒人ディーヴァとしての迫力と意志の固さが如実に表れていて、彼女の苦労を推し量ると恐れ多かった。その他にもオペラ・ディーヴァの数々、ジョーン・サザランドや、ジェシー・ノーマン、ジョイス・ディドナートなどの写真を見れば、ディーヴァの特徴は一筋縄ではいかない女性の意味でもあったと思わざるを得ないほどの凄みがある。


映画が人々のエンターテイメントとなってからのディーヴァたちにまつわる品々やビデオも見逃せない。「お熱いのがお好き」(1959)で、シュガーを演じたマリリン・モンローが着用したという、フリンジをあしらった細身の黒いドレスのデザインは洗練の極致だ。モンローが歌い、踊る画面はあまりに魅力的で吸い込まれそうになる。また「クレオパトラ」(1963)でエリザベス・テーラーが着た、金と黒の衣装からは、リズ・テイラーが小柄であっただろうことは想像にたやすいが彼女演ずるクレオパトラが登場するビデオから発散される彼女のエネルギーは絶大でその力と魔性にくぎ付けになって立ち尽くし、繰り返し、そのビデオを見続けた。


相手を納得させる力と才能、表現力を兼ね備えたディーヴァたちは、強烈に人々を惹きつけ世界中のファンが支持する偉大な存在だ。

第二幕における現代のディーヴァに関する展示では、底抜けに自己主張のあるディーヴァたちの数々に圧倒された。自らをパン・セクシュアルであると宣言するジャネール・モネイが2018年に着た、女性の体の力を主張した「女陰パンツ」は女性の外陰部を模倣したデザインで度肝を抜かれた。と同時にデュラン・ランティックによる、卑猥にならずに華やかなデザインにも関心させられた。モネイは、各人間は何重もの人格を持っていると言い、彼女のオルター・エゴであるシンディ・メイウェザーは人間とサイボーグのハイブリッドである。サイファイとアフロ・フューチャリズムがモネイの作品には共通して流れており、未来的な彼女の考え方は筆者などには最先端すぎて共感できないが、Z世代には、すんなり受け入れられるのか、と首をかしげてしまう。とはいえ、1950年代に市民権運動を主張した黒人ディーヴァから性の二分化を拒む現在のディーヴァまで、その主張の変遷の歴史が興味深い。


過去と現在、未来の政治・文化の変遷が垣間見られるディーヴァ展。ロンドンに足を延ばしたら是非寄ってみて欲しい。


中央の黒いドレスはマリリン・モンローが、『お熱いのがお好き』(1959年)で着用。©Victoria and Albert Museum, London
中央の黒いドレスはマリリン・モンローが、『お熱いのがお好き』(1959年)で着用。©Victoria and Albert Museum, London

(左)1958年ヴィヴィアン・リーが舞台『天使たちの決闘」で着たクリスチャン・ディオールのデザインしたドレス (右)1963年エリザベス・テーラーが映画『クレオパトラ』で着用したドレス  ©Victoria and Albert Museum, London
(左)1958年ヴィヴィアン・リーが舞台『天使たちの決闘」で着たクリスチャン・ディオールのデザインしたドレス (右)1963年エリザベス・テーラーが映画『クレオパトラ』で着用したドレス ©Victoria and Albert Museum, London

ジャネール・モネイが2018年に着た、女性の体の力を主張した「女陰パンツ」 ©Victoria and Albert Museum, London
ジャネール・モネイが2018年に着た、女性の体の力を主張した「女陰パンツ」 ©Victoria and Albert Museum, London

2024年4月7日(日)まで開催中https://www.vam.ac.uk/exhibitions/diva


2023年11月15日発行ACT4『ロンドン便り』に掲載


bottom of page