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  • Miho Uchida

グラインドボーンのガーデン・イベント、アウトドア・オペラ

Glyndebourne Garden events Outdoor Opera


アウトドア・オペラ『市場で愛を探して』のシーン ©Glyndebourne Productions Ltd. Photo: Richard Hubert Smith

グラインドボーンのアウトドア・オペラに行ってきた。CEOのガス・クリスティが「僕たちはあがける場所がある限りあがくよ」と言う通り、グラインドボーンの広大な庭園に簡易ステージを組み立て、ソーシャルディスタンスを保ちながらの公演だ。一〇日間に渡る一日限定二〇〇枚のチケットは発売と同時に完売した。音楽ファンがいかに生の音楽に飢えているかがわかる。雨天の場合は中止だったので、日々変わる天気予報を凝視しながら晴天を祈り続けた。その甲斐あってか当日は太陽が燦燦と輝く好天に恵まれた。


前半はグラインドボーンの音楽監督、ロビン・ティッチアーティ指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団演奏によるコンサート。そして恒例のピクニック・ディナーを挟んだ後に、グラインドボーンの芸術監督、スティーフン・ラングリッジが演出したオッフェンバックのオペラ・ブッフ『市場の婦人方』(Mesdames de la Halle)を翻案した『市場で愛を探して』(In the Market for Love)が上演された。


コンサートの主題は「自然の中で反響する幸福感」。ワーグナーが妻のコジマに誕生日の贈り物として創った『ジークフリート牧歌』やマーラーの『ラインの伝説』(歌曲集『少年の不思議な角笛』から)など恋がテーマの曲と共に、音楽は天からの贈り物で聴衆を高揚させると信じていたジョヴァンニ・ガブリエーリやチャールズ・アイヴズ、また自分の音楽から発する信号が他からのシグナルと融合し新たなハーモニーを創造すると説く武満徹の音楽が演奏された。そしてロビンはこれら各曲の演奏場所を変えることにより観客を音楽で包み込むかのような状況を作り出した。ガブリエーリの曲は観客の左に佇む湖の向こう側から、アイヴズは右後方に広がる森の中から、そして武満は後方の芝生から演奏したのだ。大家たちの音楽は、ときおり聞こえる草原の羊の鳴き声や、風にそよぐ木の葉のささやきと示し合わせたかのように共鳴し、正に自然の中で反響する幸福感を身をもって味わえた。


後半の『市場で愛を探して』はコロナウィルスに対する冗談も交えた七〇分ほどの一幕オペラで、俗的でバカげた芝居に大口開けて笑うような公演だった。前半のコンサートで経験した精神的な高揚感との対照的な楽しさが狙いだろう。妊婦にも拘わらず飛んだり跳ねたりしながらシブレットを演じたダニエル・デ・ニースとズボン役、ハリー・コーを演じたケイト・リンジーの溶け合うようなデュエットが心に響いた。

なにより同席の観客たちと沸き立つような感動を共感する空間を共有できた事が感慨深い。生演奏に勝るものはない。


シブレット役のダニエル・デ・ニースとハリー役のケイト・リンジー©Glyndebourne Productions Ltd. Photo: Richard Hubert Smith

家族ごとに配置された観客席    筆者撮影

ガブリエーリの『第12旋法によるカンツォン』は湖の向こう岸から演奏された ©Glyndebourne Productions Ltd. Photo: Sam Stephenson

武満の『シグナルズ・フロム・ヘブン、デイ・シグナル』は観客後方の芝生から演奏された©Glyndebourne Productions Ltd. Photo: Sam Stephenson

2020年9月25日発行のACT4、 98号「ロンドン便り」にて掲載


 

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