• Miho Uchida

ロングボロー音楽祭 2019 『ラインの黄金』

Longborough Festival Opera 2019 Das Rheingold


グラハム家の敷地内に建つロングボロー・オペラ・ハウス ©Midland Panoramic

   ロングボロー音楽祭は英国の夏のオペラ界を彩るカントリーハウス・オペラ・フェスティバルの一つだ。ロンドンから2時間ほど北西に向かって車で走った所にある、コッツウォルズ丘陵内の小さな村、ロングボローで開催される。500ほどの観客席を保有するこのオペラハウスは個人宅の敷地内にある納屋を改造して作られたもので、屋根にはモーツァルトとヴェルディとワーグナーの彫像が並び、入り口から入る者たちを見下ろしている。オーナーはリジーとマーティン・グラハム夫妻だ。彼らの結婚当初からの夢はバイロイト音楽祭のイギリスバージョンを自宅内に創設することだった。この壮大な夢は長年かかって現実となり、1991年から始まったロングボロー音楽祭は近年ではワーグナーオペラを毎年上演することで知られている。2019年から2022年に渡って、さらに新たなるリングサイクルのプロダクションを一作ずつ上演し、2023年には全作を通して上演する予定だ。今夏からのスタートということでロングボローでの『ラインの黄金』はオペラファンの間で話題になった。

   演出はロイヤル・オペラ・ハウスのエイミー・レーン、指揮はロングボローのワーグナーオペラには欠かせない存在のアンソニー・ニガス。こじんまりしたオペラハウスでは壮大なワーグナーオペラの世界に埋没して恍惚感に浸れるという経験はできないものの、観客との一体感がありワーグナーオペラを身近に感ずることができる。またライアノン・ニューマン・ブラウンの半円形の舞台セットは壮麗ではないが、後方から前方にかけて傾斜をとっており、さらに中央から両側に向かっても同じく傾斜をとることによって、舞台を三つに分け、地底にある小人族の国ニーベルハイム、山頂の神々の国、巨人の国で起きている事象を同時に表すことができる。さらにティム・バクスターが担当した映像の使い方も効果的だった。例えばニーベルハイムで小人たちが働き詰めている様子の映像は遊び心があり面白かったし、そのほかにもライン川の流れのきらめきや、水中に舞う金の輝きなどの映像による表現は絶品だった。衣装はエマ・ライオットのデザインだが、ヴィクトリア風ゴシック様式で惹きつけられた。歌手陣の活躍も見事で、特にダンディーなローゲを演じたマーク・ル・ブロックの歌と演技は観客に人気だった。また薄汚い感じのアルベリヒを演じたマーク・ストーンや、巨人族に誘拐されたフライアを演じた、マリー・アーネットの演技も印象的だった。

   光り輝くコッツウォルズ丘陵を眺めながらピクニックするという極上のひと時が過ごせる上に、彼らの『ラインの黄金』はワーグナーのヴィジョンを丁寧に再現しようという真摯な感じが伝わってきて心に響いた。来年のリングサイクル第2作目の『ワルキューレ』が楽しみだ。


コッツウォルズ丘陵を眺めながらピクニックする観客たち ©Matthew Williams-Ellis

マーク・ル・ブロック扮するローゲ(火の神)©Matthew Williams-Ellis

マリー・アーネット(フライア役)と ポールズ・パトニンズ(ファーゾルト役)©Matthew Williams-Ellis

2019年9月25日発行のACT4、92号「ロンドン便り」にて掲載

www.impreario.co.jp


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