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Miho Uchida

ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH) の『地下の国のアリス』

Alice's Adventures Under Ground at the Royal Opera House


アリス(クローディア・ボイル)が白うさぎの穴に落ちていくオペラ冒頭のシーン ©ROH2020 Photo by Clive Barda

 ルイス・キャロルが書いた、世界で最も有名なおとぎ話の一つ『不思議の国のアリス』とその続編『鏡の国のアリス』を併せてオペラ化したのが、『地下の国のアリス』だ。アイルランド出身の作曲家・ジェラルド・バリー作の55分ほどの短いオペラで、台本も彼が書いている。バリーのポスト・モダニズムの音楽はエネルギーに溢れていてスピードが速く、それに合わせて話が目まぐるしく進んでいく。原作中にある語呂合わせやナンセンスな要素も台本に入っているので、面白おかしく過ぎ去っていくイメージだ。このオペラは2016年にコンサート形式で公演されているが舞台でオペラとして上演されるのは今回が初めてで、イギリス人のアントニー・マクドナルドがこの新作品を演出した。


 バリーの奇想天外な音楽以外にも視覚的、聴覚的な楽しみが満載だ。アリスのおとぎ話に出てくる奇妙で愛嬌のある大勢のキャラクター達、例えば白うさぎや、カエル従僕、公爵夫人と彼女の赤ちゃん、チェシャ猫、3月うさぎ、帽子屋さん、眠りネズミ、ハートのジャック、赤の女王、ハンプティ・ダンプティ、トゥィードルダムとトゥィードルディーなどが、鮮やかで奇天烈な衣装を着て次から次へと登場し、観客の目を魅了する。一方、クロケーのレッスンを英語とフランス語とドイツ語でしたり、「ジャバウォックの詩」をロシア語やフランス語で唱えたり、ハンプティ・ダンプティがベートーベンの「歓喜の歌」のメロディに合わせて語り始めたりと、観客の耳を刺激する。


 物語はアリスが白うさぎを追いかけて穴に落ちるというお馴染みのシーンから始まる。舞台デザインもアントニー・マクドナルドがこなしたが、スクリーンに投射されるお皿や本などが上方に向かって動いていく映像がアリスが下方へ落ちる錯覚を起こさせ効果的だった。舞台は常にヴィクトリア時代のトーイシアター*のように縁取られていて古き良き時代を思い起こさせ好感が持てた。クローディア・ボイルがアリスを演じたが、穴に転落している最中に彼女は聞き取れないほどの早口でしゃべりまくるが、その間に何度金切り声のような ‘ハイC′の音を出しただろうか?多分30ほどはあったと思う。ボイルは突飛で明るいアリスを演じながらそのあとも60回以上、実際全部で98回‘ハイC′の音を出した。彼女のその精力的な姿は印象的だったが、他の歌手達、クレア・プレスランド、サム・ファーネス、ヒラリー・サマーズ、ピーター・タンティッツ、マーク・ストーン、そしてジョシュア・ブルームは、摩訶不思議な登場人物たちをそれぞれ7役も8役もこなし、彼らも始終エネルギッシュであっぱれだった。トマス・アデスのエネルギッシュな指揮に率いられ、ROHオーケストラがスピードの速いキンキンとなる金管楽器や転がり落ちていくような木管楽器の演奏を最後まで生き生きと演じていた。


 前衛的でテンポが速くマッドな感じがして一気にアリスの不思議の世界に入り込める。大人も子供も楽しめるのでぜひ家族で足を運んで頂きたい。


2月9日までロイヤル・オペラ・ハウスにて上演中。


*トーイシアターとは19世紀のヨーロッパで流行った紙で作られた人形劇のための箱の劇場



     歌うケーキたち。左からピーター・タンティッツ、マーク・ストーン、ジョシュア・ブルーム、サム・ファーネス           ©ROH2020 Photo by Clive Barda

クロケーの招待状を持つカエル従僕(サム・ファーネス)©ROH2020 Photo by Clive Barda

「きちがいのお茶会」のシーン。左から3月ウサギ(ピーター・タンティッツ)、アリス(クローディア・ボイル)、 帽子屋さん(サム・ファーネス)©ROH2020 Photo by Clive Barda

アリスがクイーンになったシーン。左から赤い女王(クレア・プレスランド)、アリス(クローディア・ボイル)、白い女王(ヒラリー・サマーズ)©ROH2020 Photo by Clive Barda

2020年2月5日付 J News UK(www.j-news-uk.com) 掲載




 

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