La Traviata by Verdi at the Royal Opera House
エルモネラ・ヤホ(ヴィオレッタ)とチャールズ・カストロノヴォ(アルフレード)
©ROH,2019.Photo.Catherine Ashmore
1994年にリチャード・エアが演出したこの『椿姫』はなんと今回で16回目のリバイ バルだ。19世紀パリの貴族社会の絢爛さが如実に表れた魅力的なセットと衣装が今作品の息が長い原因の一つではないかと思うが、デザインはボブ・クローリーによるものだ。第一幕と第二幕で現れるヴィオレッタの家のサロンとフローラの家のサロンは金と赤が基調で煌びやかだ。貴族と愛人たちが戯れあう情熱的で危うい感じに心をそそられる。第二幕に現れるヴィオレッタとアルフレードの愛の巣である田舎の家は、洗練され落ち着いている。ジャン・カルマンのデザインしたライティングによって太陽の光が差す様相は健康的でさえあり、色めいたパリのサロンとは対照的でそれが妙味になっている。そして最終幕のヴィオレッタの寝室のセットは天井が高くて寒々しいのが特徴で、犠牲となって昇天するヴィオレッタの魂が見えるようだ。ライティングの技術によって外の明るさから隔絶されている様子がすぐにそれとわかる。
オペラ『椿姫』の原作はアレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)の書いた同名小説で、小デュマが交際していたマリー・デュプレシという23歳で結核で亡くなった高級娼婦が主人公ヴィオレッタのモデルとなっている。この度は私の大好きなエルモネラ・ヤホがこのヴィオレッタを演じ、保守的且つ自分の子供たちを守りたい一心のアルフレードの父、ジェルモンを大物の、プラシド・ドミンゴが歌うというので私は鑑賞の日をを待ち焦がれていた。ヤホは、相変わらずカリスマ的で、彼女の全身全霊の演技に胸を締め付けられた。第二幕でジェルモンに説得されてアルフレードと別れる決意をする場面や、アルフレードがヴィオレッタに裏切られたと勘違いして彼女をなじるシーンでヴィオレッタが息が出来ずに倒れるシーンや、第三幕で真実を知ったアルフレードが彼女の死に際に訪ねてきた時のヴィオレッタの万感むねにせまったその表情などヤホの迫真の演技を見て私は何度も感極まって涙した。一回のオペラでこれだけ泣くのも珍しい。臨終に際しては、手が震えて息も絶え絶えで風前の灯のような姿を演じながらも細くて澄んだ美しい声が響くのには恐れ入った。ヴィオレッタに純愛するアルフレードはこの役が十八番のハンサムなアメリカ人テノール歌手、チャールズ・カストロノヴォが扮した。ヤホとのケミストリーもよく、純愛する青年を颯爽と演じていた。印象的だったのは観客から拍手とブラボーの声が鳴りやまなかった第二幕のジェルモンとヴィオレッタのデュエット、“Dite alla giovine” (お嬢様にお伝えください)だ。ドミンゴのステージプレゼンスはいまだ衰えることがない。父親然とした紳士的態度がよく似合い良く通るバリトンの声で歌うドミンゴと、ヤホとの競演は鳥肌が立つほど素晴らしかった。白鳥が羽ばたいているかように優雅に指揮するアントネロ・マナコルダに率いられてROHのオーケストラの奏でる音楽はいつものごとくわたしを酔わせてくれた。
毎年のように繰り替えされるROHの超人気のこの作品、観客の拍手喝采ぶりから判断すると25年の歳月が過ぎた今なおリバイバルがしばし続くのではないだろうか?
プラシド・ドミンゴ(ジェルモン)と エルモネラ・ヤホ(ヴィオレッタ)
©ROH,2019.Photo.Catherine Ashmore
チャールズ・カストロノヴォ(アルフレード)
©ROH,2019.Photo.Catherine Ashmore
プラシド・ドミンゴ(ジェルモン)
©ROH,2019.Photo.Catherine Ashmore
エルモネラ・ヤホ(ヴィオレッタ)とチャールズ・カストロノヴォ(アルフレード)
©ROH,2019.Photo.Catherine Ashmore
February 24th, 2019付 J News UK (https://www.j-news-uk.com) に掲載
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