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Miho Uchida

ヘンデルのメサイヤ、ウェストミンスター寺院にて

Messiah, HWV 56 by George Frideric Handel at Westminster Abbey


ウェストミンスター寺院外観 ©Dean and Chapter of Westminster

 今年はヘンデル没後二六〇年だからであろうか。オペラ、オラトリオに拘わらず、そこかしこでヘンデルの作品が演じられている。ドイツ生まれのヘンデルは二七歳で二度目のロンドン訪問をして、そのままイギリスに住み着き、イギリスに帰化した。生前から高く評価され、一七二七年にウェストミンスター寺院で行われたイギリス王ジョージ二世の戴冠式の「戴冠式アンセム」を作曲するなど、王室とも親密な関係にあった。そのためか、ヘンデルが亡くなる三日前に遺書に補足した「死後はウェストミンスター寺院に埋葬して自分の記念碑を建ててほしい」という希望がかない、彼の墓石と彫像は、寺院内の南翼廊にある「詩人のコーナー」の一角にチョーサーやテニスンの墓石と並んでいる。


 私が所属しているウェストミンスター合唱隊の今年のコンサートも、やはりヘンデルで、しかも昨年までのバービカンホールではなく、ホームともいうべきウエストミンスター寺院に戻ってきての上演であった。演目は『メサイヤ』。「ハレルヤ・コーラス」が特に有名だが、その他の合唱パートも心に訴える調べで、リハーサルをしていても家で練習をしていても、何度となく涙がこぼれそうになった。


 私達の聖歌隊とオーケストラは父母と学生、卒業生、そして教師たちから構成されるが、コンサートではゲストとして世界のオペラハウスで活躍するソロ歌手を招聘する。今年もテノールはロイヤル・オペラ・ハウスで活躍するアンドリュー・ステイプルズ、バリトンはザルツブルグ音楽祭で歌った経験もあるジョナサン・ブラウンが来た。私は今年も指揮者のティム・ガラードを凝視しながら精一杯歌い、本番はいつもながら至高の喜びを味わえた。


 公演の休憩時間に、ヘンデルの記念碑と墓石を、私のゲストたちと一緒に見に行った。ヘンデルの彫像は等身大の大きさで墓石の上の壁についている。フランスの彫刻家、ルイ-フランソワ・ルービリアックの作品だが、デス・マスクから顔の型を取ったので本人にそっくりだそうだ。彫像の背景には雲の中にパイプオルガンがあって、その上で天使がハープを弾いている。ヘンデルの隣にはたくさんの楽器と共に『メサイヤ』の楽譜が置いてある。彼は頭上の天使からインスピレーションを受けたかのように左の人差し指を立てている。そして彼の目の前には『メサイヤ』からの一曲「I know that my Redeemer liveth(主は生けりと知る)」の楽譜も置かれている。ヘンデルの表情が生気に満ちていて、エレガントであり、作曲家であることを楽しんでいるように見えるその彫像は、記念碑として絶品だと思った。そして記念像の上には石板が飾ってあり、そこにはヘンデル没後二五周年の一七八四年にヘンデル記念祭がここウエストミンスター寺院で行われたと彫ってある。その時も『メサイヤ』が歌われたらしい。今年は彼の没後二六〇年、ウェストミンスター合唱隊としてここでコンサートを行うことは当然としても、『メサイヤ』を選んだ理由はここにあったかと理解できた。


コンサートの様子 ©Chris Christodoulou

寺院内のヘンデル記念碑 ©Dean and Chapter of Westminster

テノールのアンドリュー・ステイプルズ ©Chris Christodoulou

2019年5月25日発行のACT4、90号「ロンドン便り」にて掲載


 

#ヘンデルのメサイヤ、#アンドリュー・ステイプルズ、#ジョナサン・ブラウン、

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