Cavalleria rusticana/Pagliacci by Pietro Mascagni/Ruggero Leoncavallo at the ROH
マスカーニの作曲した『カヴァレリア・ルスティカーナ』とレオンキャヴァッロの『道化師』はヴェリズモの代表作として有名だ。ヴェリズモ・オペラとは19世紀におけるヴェリズモ文学の影響を受け、題材を一般庶民の日常の問題、三角関係を含む恋愛や、暴力、殺人等から選び、その生々しい描写に焦点を充てたイタリアオペラだ。『カヴァレリア・ルスティカーナ』は、ジョヴァンニ・ヴェルガの同名の短編小説を元にしたシチリア島の片田舎の、また『道化師』はイタリア南西に位置するカラブリアの、いずれも古風な地域社会における痴話のもつれが題材だ。
『カヴァレリア・ルスティカーナ』(略してカヴァ、Cav)の初演は1890年にローマで、『道化師』(英語の題名を略してパグ、Pag)の初演は1892年にミラノでそれぞれ行われ、その一年後にイタリアのトリエステで初めて二本立てで上演された。以来この二本のオペラは『カヴァ&パグ(Cav & Pag)』と称され揃って演じられる。
先日、昨年のオリヴィエ賞を受賞した2015年のダミアーノ・ミキエレット演出の『カヴァ&パグ』を観に行った。アメリカ人テノール歌手のブライアン・ハイメルが『カヴァレリア・ルスティカーナ』のトゥリッドゥ役デビューを果たすと同時に『道化師』のカニオ役も歌っていた。彼のパヴァロッティに匹敵するような朗々とした声には本当に惚れ惚れするが、加えて抜群の演技力があるところが凄い。
『道化師』の最後のシーンは、巡業一座の座長であるカニオが妻のネッダ(カルメン・ジャンナターシオ)の浮気に嫉妬するあまりに芝居と現実を混同し、舞台上で彼女と彼女の情夫であるシルヴィオ(アンドレ・フィロンジック)を刺し殺すのだが、ハイメルの鬼気迫る歌と演技に背筋が凍りつくかのような恐怖を覚えた。一方、『カヴァレリア・ルスティカーナ』でサントゥッツァを演じたエリーナ・ガランチャの存在感に引き込まれる。彼女はラトヴィア出身のメゾソプラノであるが、容姿の美しさ、女優としての勘のよさ、地に足のついた者の持つ心の強さ、そしていうまでもなく玉を転がすような声の持ち主で非凡なスター性を感じさせる歌手である。サントゥッツァは、主だったアリアがある役どころではないが、ローラ(マルティナ・ベリ)と逢瀬を重ねる恋人トゥリッドゥに対する怒りと夫婦ではない男と関係を持った罪から生まれる恥辱と苦悶を歌ったvoi lo sapete o mama では、気迫と美声で観客の心を揺さぶった。
イスラエル出身の指揮者、ダニエル・オーレンの熱のこもった指揮も特筆すべきで、彼に導かれたROHオーケストラの演奏はヴェリスモ・オペラの流れるようなメロディーと、時折登場する衝撃的で息を呑むような暴力シーンを描写する激しい音楽とをバランスよく奏でていた。
パオロ・ファンティンのデザインによる舞台セットは20世紀半ばのイタリア・ネオリアリズム映画を髣髴とさせたが、二つのオペラが同時期の同じ村の出来事という設定なのが面白い。『カヴァ』のシチリア島の信心深い農民と『パグ』のカラブリアのお人よしの村人達の違いを強調するよりも、村の掟に従って一様に行動するコミュニティーの人々の真面目さや息苦しさを二つのオペラの共通点としてアピールするという演出家の企てだと思う。『カヴァ』の上演中に巡業一座が上演する「道化師」のポスターを街頭の壁に貼ったり、『パグ』の上演中にトゥリッドゥの母、ルチア(エレナ・ジリオ)がサントゥッツァの妊娠を喜ぶ場面を、間奏曲が演じられる間に無言芝居として登場させるなど、二つのオペラが融合していた。
ヴェリズモの『カヴァ&パグ』は、古今東西を問わず、我々が共感できる恋愛や、熱望、そして失望などの感情の渦巻くオペラだ。しかも今回は非常に質が高いパフォーマンスが観られる。この年末・年始には見逃す事がないよう、ROHに足を運ばれることを是非お勧めする。
21st December, 2017付 J News UK (www.j-news-uk.com) に掲載
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