ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH) の『ラ・ボエーム』
- Miho Uchida
- Nov 3, 2017
- 3 min read
La Bohème at the Royal Opera House

ロイヤル・オペラ・ハウスが43年ぶりにプッチーニの人気オペラ『ラ・ボエーム』の新しいプロダクションを制作した。1974年にジョン・コプリーによって演出された作品が、ROHにおける歴代1位のロングランであったが、最後に上演されたのは2015年の夏シーズン。以来皆がこの新たな作品を心待ちにしていた。演出はオペラ及び演劇部門で多くのローレンス・オリヴィエ賞を受賞しているリチャード・ジョーンズ。舞台美術と衣装デザインは今まで多くの作品をリチャードと組んで手がけてきたステュワート・レイング。そして照明担当は過去にオビー賞を2度授賞しているミミ・ジョーダン・シェリン。錚々たるメンバーによるプロダクションだ。
『ラ・ボエーム』は、1830年代のパリにおける自由奔放な生活を追求し実践するアーティスト達をテーマにしたオペラで、アンリ・ミュルジェールの小説・戯曲『ボヘミアン生活の情景』(1849)が元になっている。この新作品ではコスチュームは、1830年代のパリを忠実に再現していた。第1幕のボヘミアンたちの住む屋根裏のセットはストーヴと小さな引き出しが置いてあるだけで、灰色で冷たい感じがしたが、観客を惹きつけたのは第2幕のクリスマスで賑わうカルチエ・ラタン街のアーケードのセットだ。第1幕のミニマリズムとは対照的に店には品物が溢れ、色も鮮やかだ。カフェ・モミュスは、ボヘミアンたちがアルチンドロに勘定を払わせて逃げてしまうレストランだが、観客がさぞや高額であったろうと心配するくらいに、豪華な雰囲気がした。
ロドルフォを演じたマイケル・ファビアーノの声は朗々として美しいが、第1幕の有名なミミとのデュエット「O soave fanciulla(愛らしい乙女よ)」を歌っている時、恋に落ちていると言うよりは、むしろ自己陶酔に陥っているような感じがしたのは残念だった。しかし総じて出来は素晴らしく、彼は歌う度に観客から拍手喝采を浴びていた。ニコル・カーの演じるミミは柔和な雰囲気を醸し出し、シモナ・ミハイ演じる火の様に強いかんしゃく持ちのムゼッタとのコントラストが楽しめた。マルチェッロを演じたマリウス・クヴィイェチェンは、ムゼッタに振り回される男役をセクシーに演じていた。
指揮は巨匠アントニオ・パッパーノで、登場するなりタクトを振りはじめ、このオペラを熟知しているのが手に取るように分かった。そして彼の率いるROHオーケストラの演奏は秀逸であった。第4幕の終盤であまりの演奏の美しさに思わずオーケストラ・ピットを覗き込むと、感情移入したパッパーノとコンサートマスターのヴァスコ・ヴァッシレフが目に入り、その演奏する姿に感動して見入ってしまった。
さてこの作品がコプリー版と同様長期に渡ってレパートリーになるであろうか?「この作品も永くみんなに愛されると思うよ」とヴァスコは言っていた。演奏と歌手達が私の観た日と同じように上出来ならば長続きしても全く不思議ではなく、私もそう思う。来年の6月にはキャストを変えて早くもリバイバルで上演されるので今回見逃した方は是非ご覧になるようお勧めする。




3rd November 2017 付 J News UK (www.j-news-uk.com) に掲載
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