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Miho Uchida

ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)、ヴェルディの『オテロ』

Updated: Dec 16, 2019

Otello by Verdi at the Royal Opera House


 

オテロ(グレゴリー・クンデ)とデスデーモナ(エルモネラ・ヤオ)©ROH2019.Photo: Catherine Ashmore

 

『アイーダ』(1871)の後、ヴェルディはオペラの作曲活動をやめていたが敬愛するシェイクスピアの作品ついては別だった。そのシナリオを練ったのは彼の版元であるジューリオ・リコルディだ。彼はシェークスピアのオペラ化を渇望しており台本をアッリーゴ・ボーイトに依頼していた。ボーイトの微妙な差異が表現された台本が、まさにヴェルディを魅了し、その重い腰を上げさせたと言えよう。こうして書かれたのが『オテロ』(1887)である。久々のヴェルディのオペラに観客は興奮し初演はミラノ・スカラ座で大成功を収めた。それからヴェルディは再びボーイトと組んでシェイクスピアの喜劇、『ウィンザーの陽気な女房たち』をオペラ化した『ファルスタッフ』(1893)を創作した。それが彼の生涯最後のオペラとなった。


現在ROHで上演中の『オテロ』は先日日本でも公演された、キース・ワーナー演出による2017年の作品である。タイトルロールのオテロと指揮者は9月の日本公演と同じくグレゴリー・クンデとアントニオ・パッパーノだ。


グレゴリー・クンデの声はオテロ役で有名なドミンゴやカウフマンのようなまろやかですべらかな高音とは異なるが、粗めでヴォリュームのある声はヴェネツィア領キプロスの総督であるオテロとしてふさわしい威厳ある声だ。クンデはオテロ登場シーンの最初の一声「Esultate!(喜べ!)」からそれを証明した。その後、第1幕のラブデュエットも最終幕の アリア 「オテロの死(Niun mi tema)」も余すところなく人々を惹きつけた。しかしながら彼の演技力には疑問を持たせる場面もあった。第2幕でデスデーモナが不実をしているのではないかと不安になり、徐々に錯乱していく様子は目覚ましかったものの、第1幕の恋人としての甘く切ないシーンや最終幕でデスデーモナを殺した後、彼女の無実を知り絶望するシーンは今一つ演技に説得力がなかった。内面が刻々と変わっていくオテロ役の難しさをつくづく実感した次第である。オテロの妻のデスデーモナにはROHの常連エルモネラ・ヤオが扮した。最終幕の「柳の歌(Willow Song)」と「アヴェ・マリア」は濡れ衣を着せられ悩み苦しむデスデーモナを、気品を保ちながらも鬼気迫る演技と歌唱力でこなし観客をくぎ付けにした。ヤオは修道女のアンジェリカや蝶々夫人など、プッチーニの犠牲者的なヒロインが得意だが、デスデーモナの最終幕でもそれを実証した。ただ、第1幕のオテロとのラブデュエットで、最高音がかすんでしまうほど細く、心もとない感じがしたのは惜しかった。文学史上最も悪徳な男、イアーゴを演じたのはスペイン人・バリトンのカルロス・アルヴァレスだ。彼の深く伸びる声が素晴らしく、歌唱力に非の打ちどころはなかったが、何食わぬ顔をして人々をだます場面や聞かせどころ「クレド(Credo)」を歌っているシーンでは悪党らしいニヒルな感じが今一つ欠けていた。ボリス・クドリカのセットデザインで印象的だったのは第3幕でヴェネツィアの象徴である有翼の獅子像が出てきたところだ。雄大で畏怖の念を起させた有翼の獅子像は当時のヴェネツィアの偉大さとムーア人であることが劣等感となっているオテロのアイデンティティと心情を暗示するのに効果的だった。


ロイヤルオペラのコーラスは冴えていて特にオープニングの嵐のシーンは怒涛のように迫り狂う勢いが新鮮だった。また、オーケストラは大胆でエネルギッシュなパッパーノの指揮に率いられ、『オテロ』の音楽のエキサイティングさを最大限に表現してくれた。


シェイクスピアの四大悲劇の一つである『オセロー』をヴェルディの劇的な音楽で翻案した傑作オペラ『オテロ』をROHの精鋭スタッフと黄金の歌手陣が披露している。お見逃しのないように。


ロイヤルオペラハウスにて12月22日まで上演中。



デスデーモナ(エルモネラ・ヤオ)とオテロ(グレゴリー・クンデ)©ROH 2019. Photo: Catherine Ashmore

イアーゴ(カルロス・アルヴアレス)とオテロ(グレゴリー・クンデ)©ROH 2019. Photo: Catherine Ashmore

第3幕、有翼の獅子像のセット

14th December 2019 J News UK (http://www.j-news.uk.com) にて掲載



 

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