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Miho Uchida

ガーシングトン・オペラ2019、オッフェンバックの 『ファンタジオ』

Fantasio by Offenbach at Garsington Opera 2019


 

右から、バイエルン国王(グレアム・ブロードベント)エルスベス王女(ジェニファー・フランス)マリノーニ(ティモシー・ロビンソン)マントヴァ王子(ヒュー・モンタギュー・レンダル)©Photo by John Snelling

 

今年はオッフェンバックの生誕200周年だ。そこでガーシングトン・オペラが彼のオペラ・コミーク、『ファンタジオ』を英国で初めて上演した。1872年にパリで初演されたこのオペラはあまり上演されない。しかしその中のいくつかの曲は傑作『ホフマン物語』に再使用されるなど、オッフェンバックが『ホフマン物語』に到達するまでの過程の作品として重要だ。


この新作品は2014年にここガーシングトンでオッフェンバックの珍しいオペラ、『ヴェール、ヴェール』を演出したマーティン・ダンカンによるものだ。そして台本はポール・ドゥ・ミュセのフランス語のオリジナルをジェレミー・サムズが英訳したものが使われた。フランシス・オコナーのデザインした衣装はけばけばしいともいえる色彩で、全員がピエロのようだった。また舞台セットもカラフルで幼児の子供部屋にあるおもちゃのようだった。登場人物たちの軽薄ともいえる性格と「愛がすべてを解決する」という単純なテーマも合わさって、オペラというよりも英国における子供向けのパントマイムショーのようだった。

しかし歌手達の歌唱力は素晴らしいものがあった。まず昨年の演目『カプリッチョ』でクレロンを演じたハナ・ヒップ。彼女が希望に燃える青年ファンタジオを演じたが、その少し太めで甘い美声は魅惑的で、さらに演技も堂々としていて好感が持てた。ファンタジオが恋するエルスベス王女には去年のクリティックス・サークル賞で新人賞を受賞した新星実力派のジェニファー・フランスが扮した。彼女は容姿端麗な歌手でコケティッシュでもあり背筋がぞくぞくするほど魅力的だった。と同時に彼女のコロラトゥーラは繊細で技巧的で観客を惹きつけた。第3幕でのファンタジオとエルスベス王女のデュエットは息も合いこの日一番の見せ場だったといえよう。エルスベス王女のいいなずけ・マントヴァの王子を演じたバリトン歌手のヒュー・モンタギュー・レンダルと、彼の従者・マリノーニを演じたテノール歌手のティモシー・ロビンソンは、途中入れ替わってお互いに成りすます役どころで、一緒に登場して歌うことが多かったが、それぞれの歌声も技術も洗練されていた。特にロビンソンの高らかに良く通る声は心に訴えるものがあった。また彼のコミカルな演技もタイミングを得ていて観客の笑いを誘った。バイエルン国王を演じたグレアム・ブロードベントは水をたたえた湖を連想させるような深く豊かな歌声の持ち主で、存在感のある王にぴったりだった。しかしなんといってもこの日一番印象的だったのは指揮者ダスティン・ドイルの丁寧で緻密な指揮だった。彼に率いられたガーシングトン・オペラ・オーケストラは、オッフェンバックの紡ぎ出した、時に繊細で時にセンチメンタル、また時に華麗なメロディーでつづられた『ファンタジオ』を巧みに演奏表現していた。


ご存じの通り、ガーシングトン・オペラの興はオペラだけではなくロンドンの喧騒から離れた森林の中で演じられるそのセッティングによるところも大きい。この日は快晴だったが、開演前のシャンパンで喉を潤すころには日差しがかなり優しくなっていた。ほどよい涼しさの中、湖を臨む椅子に腰かけ、ほのかな風をシャンパンで上気した頬に感じる。こんなにまったりとした優雅な時間はなかなか経験できない。ガーシングトン・オペラならではの極上のひとときだ。ガーシングトンは間違いなく私の一押しカントリーハウス・オペラなのである。


マリノーニ(ティモシー・ロビンソン、左)とマントヴァ王子(ヒュー・モンタギュー・レンダル、右)    ©Photo by John Snelling

右から、ファンタジオ(ハナ・ヒップ)とマリノーニ(ティモシー・ロビンソン)©Photo by John Snelling

ファンタジオ(ハナ・ヒップ)を担ぐファシオ(ジョエル・ウィリアムズ、右)とハートマン(ジョセフ・パッドフィールド、左)©Photo by Clive Barda

18th July 2019付 J News UK (www.j-news.uk.com)にて掲載



 

#ファンタジオ、#オッフェンバック、#ハナ・ヒップ、#ジェニファー・フランス、

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