• Miho Uchida

『ルイザ・ミラー』イングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)にて

Luisa Miller by Giuseppe Verdi at the English National Opera


仲睦まじい伯爵の息子ロドルフォ(デヴィッド・ジョンフン・キム)と村娘ルイザ(エリザベス・ルウェリン) ©ENO 2020 Tristram Kenton

ヴェルディはシェイクスピアと同様にドイツの文豪シラーを敬愛し、彼の戯曲を四作オペラ化している。『ルイザ・ミラー』はその一つで原作は「たくらみと恋」(Kabale und Liebe)。社会的地位の異なるルイザとロドルフォは二人の純粋な愛を貫こうとするが、周囲の陰謀に踊らされ破滅に追い込まれてしまう。ヴェルディ独特の抒情的なメロディーと、繊細な管弦楽法が確立していく彼の中期の始めの作品だ。中期人気作である「リゴレット」や「椿姫」とは音楽的にも、また親子の結びつきにテーマを置いている点でも似ている。


ENOで初上演


今回ENOがイギリスでは一七年ぶりにまたENOの史上初めて『ルイザ・ミラー』を上演した。演出は二〇一八年の国際オペラ賞で新人賞を受賞したチェコ出身の女性演出家、バルボラ・ホラコヴァ。コンテンポラリーなデザインの作品で衣装は現代風。ピエロのように顔を白く塗ったコーラスや裸で怯える若者がヴァルター伯爵に脅迫され油をかけられそうになる場面など、どぎつい演出に対しては否定的な意見が多かった。私としては主役二人が幼馴染ではないのに仲良く遊んでいる回想シーンを不可解に感じ、また物語の芯を成す社会的階層の差を感じさせる部分が皆無な点が腑に落ちなかった。しかしハラハラさせるシーンを組み入れ、メリハリのきいたこの作品を総合的には評価している。


演出に対しては毀誉褒貶あったが誰もが称賛したのは歌手達の演技力だ。ルイザに扮したのは昨年『ポーギーとベス』のベス役でメット・オペラデビューを果たしたエリザベス・ルウェリン。柔らかい感じがするのに音量があり派手ではないが銀鈴のように輝く彼女の歌声にうっとりした。ロドルフォ役には韓国の新進スター、デヴィッド・ジャンフーン・キム。彼の演技と歌は確実に進歩しており、柔和なロドルフォの性格を朗々とした歌声に乗せた。デヴィッドの渾身の演技が胸に迫り、私は彼の大ファンになった。更に特筆すべきは憎まれ役ヴルムを演じたソロマン・ハワードだ。彼の凄みのある声は長身で筋肉隆々の肉体美と相まって威圧的といえるほどのインパクトがあった。指揮者はポップスのシンガーソングライター、ビリー・ジョエルの異母兄弟であるアレクサンダー・ジョエル。血は争えないとはこのことだ。ジャンルは異なるがビリーと同様、比類なき音楽的才能を彼の優美な指揮から感じた。


昨今の社会情勢を踏まえ「配役における人種の多様性」に配慮し、多彩な歌手陣を集めたのみならずその全ての演技が抜きんでており一皮むけたENOを印象づけられた夜だった。


秘書官ヴルム(ソロマン・ハワード)に脅迫されるルイザ(エリザベス・ルウェリン)©ENO 2020 Tristram Kenton

ヴァルター伯爵(ジェームズ・クレスウェル)と彼の秘書官ヴルムが裸の若者を脅すぞっとするような場面©ENO 2020 Photo by Tristram Kenton

2020年3月25日発行の ACT4、95号「ロンドン便り」にて掲載

www.impresario.co.jp 

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